カスタマーエクスペリエンスは、ブランドとの関係が継続する期間中に顧客がブランドと行ったすべてのやり取りの全体を指します。重要なのは、こうしたやり取りにまつわる感情、感覚や認識です。顧客の体験を理解する方法のひとつに、すべての顧客のタッチポイントを巡るジャーニーをマッピングして分析するものがあります。
カスタマージャーニーマッピングの分野には、これまでに難解な用語が多数登場しています。カスタマージャーニーマッピングの概念自体の定義や実践の仕方もそれぞれに異なるため、混乱を招く可能性があります。
しかし、顧客のニーズに合わせてカスタマーエクスペリエンスを積極的に設計できるよう、この分野には新たな概念が加えられ、さらに進化を遂げてきました。残念ながら、こうした新しい概念も同様に分かりにくく、混乱を招くものです。定義を紐解いてみましょう。
辞書によれば、ジャーニー(旅)とは、ある場所から別の場所へ移動する行為を指します。カスタマージャーニーも同様に、ブランドとのやり取りや取引を完了する行為、また、顧客がその過程でとるステップを指します。
旅の過程でさまざまな移動手段を使用するのと同じように、カスタマージャーニーには、タスクの完了や目的とする成果の達成に至る複数のチャネルが含まれる場合があります。やり取りの例としては、カスタマーサービスへの連絡、オンラインアカウントの作成、請求書の支払い、購入、ソーシャルメディアでのブランドとのやり取りなどがあります。
したがって、カスタマージャーニーマッピングとは、ある目標や成果を達成するため、顧客がやり取りや取引を完了するときに行うこと、思考や感覚を把握するプロセスとなります。
ジャーニーマップとは、顧客があるニーズを抱えた瞬間からそのニーズが満たされるまでのジャーニーのステップを視覚化したもので、顧客視点に立った顧客主導型のものです。ジャーニーマッピングは、現在の状態のマッピング、将来の状態のマッピング、ある1日のマッピング、サービス設計図と実装を含むツールとプロセスであるといえます。
ジャーニーマッピングと同じ意味で使用されることが多い用語に「タッチポイントマッピング」がありますが、同じものではありません。これは、顧客のライフサイクル全体を通じてブランドと顧客が接触し、やり取りをするさまざまな方法をすべて捉え、棚卸しをするために使用されるツールです。このマップで判明したことに基づき、次のステップでは、摩擦や問題のあるタッチポイントへ、またはこうしたタッチポイントを通過する移動をマッピングしていきます。
カスタマージャーニー管理を取り入れることで、ジャーニーマップを単なる絵に描いた餅に終わらせず、次のレベルへと導くことができます。Lumen Technologies の CX ストラテジストである Peter Haid 氏は、ジャーニー管理を「カスタマーエクスペリエンスの価値を高めるため、ジャーニーマップのポートフォリオを理解、計画、実装、最適化するための規律」と定義しています。
カスタマージャーニー管理の中で重要となるのが、カスタマージャーニー分析です。カスタマージャーニー分析とは、顧客がさまざまなチャネルを使って組織とやり取りする方法を追跡・分析するプロセスで、現在と将来の時点で顧客との直接の接点となるあらゆるチャネルをカバーしています。カスタマージャーニー分析の目標は、組織がどんなタッチポイントでも最適なカスタマーエクスペリエンスを提供できるように支援し、組織横断的なチームにその実現に必要な全方位的洞察を提供することにあります。
カスタマージャーニー分析はデータに基づくもので、ジャーニーマップに生命を吹き込みます。ジャーニーの各ステップとチャネルに沿ってデータを追加し、顧客がたどる可能性のあるジャーニーとマイクロジャーニーの複数のバリエーションを強調することができます。顧客が成果を達成して価値を得られるよう、カスタマーエクスペリエンスを最適化できるようになります。
カスタマージャーニーマッピング分析は、カスタマージャーニー管理プログラム成功のための重要な要素です。企業がカスタマーエクスペリエンスとビジネスの成果を追跡・測定し、最終的な改善につなげる上で大切です。カスタマージャーニーマップを分析することで得られた貴重な洞察を活用して、ジャーニーを最適化し、CX 施策の影響を測定できます。
カスタマージャーニー分析を行うことで、顧客の行動に関する洞察を全社的に伝えられ、リアルタイムで問題点を特定し、問題を診断できるようになります。こうした問題を解決し、改善の優先順位を付けるベストな方法を決める上で、洞察が役立ちます。
企業と顧客間のジャーニーの分析は、カスタマーエクスペリエンス全体で期待される利益を得る上で不可欠です。しかし、実際にはどう分析を行えばよいでしょうか。
ここでは、カスタマージャーニー分析を行うために必要な6つのステップをご紹介します。
- ジャーニーに含まれる摩擦点を特定
顧客は企業とのやり取りが手軽にできることを期待しています。提供する体験がこうした期待に達しないと、カスタマーエクスペリエンス全体に悪影響が及びます。改善策を取れるよう、摩擦のポイントを特定することが重要です。

- 摩擦の原因となるチャネルの遷移を特定
今日の顧客は、メール、SMS、モバイル、企業ウェブサイトなど、いくつかのチャネルまたはデバイスを使用して企業とやり取りをします。こうしたチャネル間の移行が摩擦を生むことが多々あります。例えば、携帯電話でフォームの入力を開始した顧客でも、途中から入力をノートパソコンに切り替えることがあります。フォームに入力したデータが失われ、最初からやり直しが必要になると、時間のムダと不満が生じます。チャネルの移行に関する問題点を特定して、合理化することが大切です。

- 不要なタッチポイントを特定
カスタマーエクスペリエンスを簡素化するため、ジャーニー内で不要で排除できるステップを探します。必須でなく、やり取りに価値をもたらさないステップは削除する必要があります。
- ジャーニーの各ステージの期間を評価
顧客がそれぞれのやり取りを完了するのにかかる時間を判定します。やり取りに費やされる時間は、CX の測定に使われる最も重要な指標の1つである顧客努力指標(CES)に影響を与えます。
顧客が取引の完了に必要な労力を負担が大きすぎると見なすと、失客の可能性があります。ジャーニーに中で時間と労力をたくさん要するステップを特定し、これらの部分を合理化するための行動を起こすようにします。
- 「真実の瞬間」を特定
「真実の瞬間」とは、カスタマージャーニーの途中でその成否を分ける段階を指します。これをうまく実践すれば、その顧客はジャーニーを続け、ブランドの製品やサービスを購入するでしょう。反対に失敗すれば、恐らくブランドとの取引を取りやめることとなるでしょう。真実の瞬間は、ブランドを差別化し、顧客を魅了するための極めて重要な機会です。
例えば、保険会社にとっては保険金請求プロセスが重要な「真実の瞬間」となります。顧客にとり、請求プロセスは非常に感情的なものとなる可能性があり、保険会社が最高の CX を提供するためには、共感に満ちた請求プロセスを確立することが重要です。

ジャーニーマップを使用して、重要な瞬間を特定し、行動に移して、あらゆる顧客に対しいつでも一貫性と関連性のあるパーソナライズされた体験を提供しましょう。

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- ジャーニー内で顧客の期待に沿った、または期待を上回ったポイントを特定
ジャーニーの問題点の特定は CX 施策で注力すべき点を判断する上で重要ですが、顧客の期待を満たした、または上回った箇所を判断することも、ジャーニーの他の場所でそれらを再現する上で大切です。
カスタマージャーニーマッピングは、提供しているカスタマーエクスペリエンスを理解するための最初のステップです。カスタマージャーニーマップを作成した後は、マップの分析を行い、顧客とのやり取りを簡素化・合理化できる領域をピンポイントで特定し、ロイヤルティとビジネス成果の向上をもたらすカスタマーエクスペリエンスを提供していく必要があります。