顧客とのやり取りが単一のチャネルを通じて行われていた時代はとうに過ぎ去りました。それでも、多くの企業は、未だに適切な顧客コミュニケーション戦略を見出すのに苦心しています。
マルチチャネルコミュニケーションやオムニチャネルコミュニケーションといった言葉をよく耳にしますが、顧客エンゲージメントの文脈ではどのような意味を持つのでしょうか。本章では、これらの用語を定義して解説します。
オムニチャネルカスタマーエクスペリエンスは、企業があらゆるチャネルにわたって一貫性があり、一元管理されたコミュニケーションを発信することでもたらされます。こうすることで、企業とのやり取りに顧客がどのチャネルを選択した場合でも、変わらないカスタマーエクスペリエンスを届けることができるようになります。
オムニチャネルとは、実店舗、モバイルやライブチャットなど、顧客接点全体を通じてユニークかつ一貫したブランド体験を提供することです。オムニチャネル戦略を持つことで、チャネルの種類に関係なく、物理チャネルとデジタルチャネルを通じて包括的な顧客像を知ることができます。中心にあるのは、製品やブランドではなく、顧客です。
オムニチャネルのユーザーエクスペリエンスをうまく実現すると、実店舗でもモバイルアプリでも、複数のチャネル間で統一感のある体験を届けられるようになります。適切にパーソナライズされたインタラクションとメッセージを適時に使用して、顧客が積極的に自身のジャーニーを進んでいくように調整できます。
オムニチャネルコミュニケーション

マルチチャネルのカスタマーエクスペリエンスとは、印刷物、メール、ウェブポータルやモバイルアプリなどの複数のチャネル経由で顧客とコミュニケーションを取ることを指します。
企業側の観点からいえば、マルチチャネルコミュニケーションには、複数のチャネルを介して資料や情報を発信することが含まれます。この際、送信される内容を社内で調整することはなく、内容に一貫性はほとんどないのが一般的です。例えば、メールと紙面では、データやブランディングの観点から見てコミュニケーションがまったく異なって見える場合があります。また、マルチチャネルコミュニケーション戦略では、顧客との双方向や対話型のコミュニケーションへの対応はされません。
マルチチャネルコミュニケーション

購買することを選択したブランドに対し、消費者が一貫性のある包括的な体験を期待する傾向は強まっています。自分が希望するチャネルを介した、パーソナライズされ、わかりやすくプロアクティブなコミュニケーションを要求しています。
企業は、顧客が求める情報や機能を、顧客が求める方法や場所で提供する必要があります。ここで鍵となるのは、チャネルに関係なく、すべての体験に一貫性を持たせることです。オムニチャネルのカスタマーエクスペリエンスなら、これを実現できます。
顧客は、オムニチャネルを通じてよりよい体験を求めています。消費者と法人バイヤーの75%は、ブランドと関わる際に複数のチャネル間で一貫した体験を享受できることを期待しています。
オムニチャネルでは、モバイルが重要です。顧客の82%は購入したい製品の調査にスマートフォンを使っています。検索エンジン、公式のブランドウェブサイト、ブランドや製品が掲載されている最近のニュースレターなどを利用しています。モバイルの体験が優先される以上、優れたオムニチャネルエクスペリエンスは不可欠です。最近の調査によると、消費者は1日に150回、毎日2時間以上を費やしてスマートフォンをチェックしています。
組織が成功するためには、CX 戦略全体の一部として顧客コミュニケーションにおける目標を明確に定義する必要があります。CCM ソリューションを評価する際、企業のリーダーには、ニーズと要件を満たせるテクノロジープロバイダーを見つけることが強く求められます。どのベンダーも一様に、セールスやマーケティングのプレゼンでオムニチャネルやクロスチャネルの体験を主張することができます。しかし効果を証明することはできるのでしょうか?判断はお任せします。
オムニチャネルカスタマーエクスペリエンスを向上させる主な方法としては、最新のカスタマーコミュニケーション管理 (CCM) プラットフォームの採用が挙げられます。
Gartner はCCMを次のように定義しています、「CCM テクノロジーは B2C または B2B における顧客コミュニケーションの作成、管理と配布を支援します。CCM アプリケーションは、多くの場合送信者ではなく受信者の好みに基づき、マルチエクスペリエンス配信に対応するパーソナライズされたオンデマンドコミュニケーションを作成します。
保険、銀行、ヘルスケアや公益事業などの業界では、請求書、明細書、通信文、マーケティングコミュニケーションなどのドキュメントの生成に CCM を使用しています。こうした通信は一般に厳しい規制の対象となっており、口座番号、財務データ、健康情報などの個人を特定できる情報 (PII) が含まれています。そのため、CCMシステムでは、マーケティングベースのコミュニケーションプラットフォームには必ずしも必要ではない水準のガバナンス、監査やデータセキュリティが提供されています。」
CCM の機能
主要な CCM ソリューションには以下のような機能や特徴があります。
- 高度なデザイン能力を備えている
- 可変データを簡単に処理できる
- 絶えず変化する規制に遅れずに対応できる
- ビジネスユーザーが顧客の選好するチャネルでパーソナライズされたメッセージをいつでも送信できるようにする
- 双方向の対話を可能にする
- 組織やデジタル面でのサイロ化を打破する
- デジタルオンボーディングなどの複雑なビジネスプロセスを管理する
- その他いろいろ
顧客を獲得した後に発生するあらゆるやり取りについて、こんな質問を投げかけてみましょう。
- コミュニケーション内容には関連性があり、パーソナライズされ、オンデマンドでアクセス可能か?
- ブランディングに準拠しており、ブランドイメージをポジティブな形で反映しているか?
- 一貫性があり、規制に準拠しているか?
- 双方向のコミュニケーションを実現できているか?
- 顧客の選好するチャネル経由で配信されているか?
- 組織内の対象分野の専門家の知識が組み込まれているか?
これらの質問のいずれかに対する回答が「いいえ」となった場合には、CCM が役立ちます。
複雑な可変データ
銀行、保険、ヘルスケアなど、大量のデータを扱う業界では、複雑な可変データ処理の必要性が課題となっています。これらの業界では、多くの異なるコア IT システムに保存されている個人情報、アカウントでのアクティビティやトランザクション履歴を管理しています。
CCM ソフトウェアは、異種システムから複雑なデータを取得して分かりやすくパーソナライズされた顧客コミュニケーションに整理することができます。
刻々と変化する業界の規制
業界の規制とコンプライアンス基準は頻繁に変更され、国によっても異なります。規制の厳しい業界の組織は、絶えず変化する規制要件に追いつくのに苦心しています。規制の違反には、厳しい金銭的罰則が課せられます。こうした組織で、送信するすべてのコミュニケーションに規制を遵守した適切な表現のみを確実に含めるためには、どうすればよいでしょうか。
そのためには、すべての顧客コミュニケーションの設計と配信にコンプライアンス部門を関与させることが重要となります。
これは、以下を可能にする CCM ソリューションでのみ実現できます。
コラボレーション : 法務チームとコンプライアンスチームにコミュニケーションポートフォリオ全体で使用される、規制が関係するコンテンツブロックの所有権を付与します。コンテンツブロックは、規制対象の表現を保護するために不正な利用や変更から守られます。
包括的なビュー : 利用されるすべてのチャネル (モバイル、ウェブなど) を含んだ、コミュニケーションパッケージ全体の可視性をコンプライアンスチームに与えます。
より優れた制御 : コンプライアンスチームは、規制対象の表現を迅速かつスムーズに管理、追跡、監査、承認できるようになります。
インタラクティブ性
優れた CCM ソリューションを活用することで、企業は既存の顧客対応を変革することができます。コミュニケーションはパーソナライズされ、インタラクティブな表やチャートを含むレスポンシブな体験を提供できるようになります。さらに、アップセルやクロスセルメッセージを既存のコアシステムと統合して追加できるようになります。
デジタルフォームとプロセス
CCM を使って顧客データが事前入力されたフォームをデジタルアプリケーションフローに提供することで、新製品とサービスのオンボーディングが容易になります。顧客は電子署名機能が統合された任意のデバイスから契約を確認して署名することができます。
複雑なドキュメント管理
多くの組織が複雑なドキュメントの効果的な組み立てと配信に苦労しています。CCM ソリューションは、1つの一元的なハブから複雑なドキュメントの作成、組み立てや管理を簡素化し、すべてのチャネルにわたる配信も容易になります。これにより、さまざまな種類のコンテンツ、ドキュメントの順序、コンプライアンス関連のメッセージングなどの絡む複雑な関係を完全に制御することができます。
こうした強力な機能を組み合わせた結果は?顧客は、好みのチャネルを通じてパーソナライズされたインタラクティブで読みやすい情報パッケージを受信します。このパッケージでは、並べ替え可能なタブ、インタラクティブなチャートとグラフ、組み込みの電子署名機能も提供できます。
サイロをつなぎ、ビジネスユーザーを支援する機能
通常、大規模な組織には、モバイル、印刷物、SMS、メールなど、さまざまなチャネルの顧客コミュニケーションの作成を担当するチームが個別に存在します。また、特定のチャネルにわたるコミュニケーションのサポートを外部に委託している企業もあります。こうしたチームでは共同作業やコンテンツの共有が行われないことが多く、以下のような事態が発生する場合があります。
- 分断されたカスタマーエクスペリエンス
- 作業の重複
- 非効率性
- コンプライアンスリスクの高まり
- 一貫性のないブランディングとメッセージング
主要な CCM ソリューションは、大企業が以下のようなサイロ化の3つの重要課題を克服するのに役立ちます。
- データサイロ
- チャネルのサイロ
- 組織のサイロ
データサイロの克服
大企業では、ミッションクリティカルなテクノロジーから構成される複雑な IT インフラを抱えているのが一般的です。これらのシステムは関連コストを理由にリプレースやアップグレードが難しいのが実情ですが、これらに格納されているデータは非常に貴重なものです。
銀行や保険会社などの組織には、金脈とも呼べる貴重なデータが眠っており、顧客に関する何十億ものデータポイントにアクセスできます。こうしたデータポイントは、高度にコンテキスト化された方法でエンゲージメントを実現するために活用できます。
パーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを提供するための鍵は、これを支える基盤となるテクノロジーとその統合能力にあります。主要な CCM ソリューションは既存のデータエコシステム内のどこからでもデータを取得できるため、技術に詳しくないビジネスユーザーでも、すべてのチャネルで高度にパーソナライズされたインタラクションを作成して提供できるようになります。
チャネルのサイロの克服
多くの組織に、チャネル固有、またはプロジェクト固有のマーケティングや顧客コミュニケーション向けのシステムが存在しています。その結果、システム同士がもつれて混乱し、顧客体験が損なわれ、顧客のロイヤルティが危険に晒される危険性が生じています。
今日の CCM ソリューションを導入すれば、チャネル固有のメッセージを個別に作成する必要がなくなります。承認されたテンプレート、コンテンツブロック、ブランディング要素や必須の規制対応文言が一元的に保存され、すべてのチャネルで活用されます。変更が加えられると、更新は1回のみ行われ、すべてのチャネルに反映されます。
Quadient のソリューションを例に挙げれば、コミュニケーションはチャネルに依存しない方法で設計されており、オムニチャネルプレビューでさまざまなチャネルでコミュニケーションが顧客にどのように見えるかを確認することもできます。
組織のサイロの克服
システム開発が IT 部門のみで完結していた数年前には、同部門がすべてを主導し、コントロールを維持していました。ただ、ビジネスがデジタル化するにつれ、ビジネスユーザーが進め方を指示する機会が多くなりました。その一方で、IT 部門は実際に手を動かす役割として機能しています。
ビジネスユーザーには、パーソナライズされたメッセージを作成して配信するために、さまざまな利害関係者をつなぐインテリジェントなワークフローによるコミュニケーションの所有権が必要となります。
CCM プラットフォームの導入で、ビジネスユーザーはコンテンツを簡単に作成、編集、管理できるようになり、IT 部門に頼らずに変更を行えるようになります。
- コンテンツ作成者は、ブランディングとパーソナライゼーションのルールに従ってコミュニケーションを設計し、承認ワークフローを使用してコンプライアンスを確保できます。
- ビジネス管理者は、各テンプレートにアクセスできるユーザーを決定し、ユーザーが実行できる変更の種類を指定して、関連する承認ルールとワークフローを定義することができます。
- ビジネスユーザーは、使いやすいウェブエディターから事前定義されたコンテンツブロックにアクセスし、顧客に合わせてパーソナライズすることができます。
大企業では毎月数百万件もの顧客向けコミュニケーションを発信していますが、これには数千件のテンプレートが使われている可能性があります。ドキュメントテンプレートの変更には時間がかかる場合があるため、こうした手間を外部に委託できれば、双方の利益となります。
優れたカスタマーエクスペリエンスの設計と提供では、オムニチャネルコミュニケーションテクノロジーは不可欠です。オムニチャネルのアプローチは、すべてのチャネル間のつながりを融合し、あらゆるインタラクションにわたってシームレスなカスタマーエクスペリエンスを作成します。
優れたオムニチャネルのカスタマーエクスペリエンスを提供することで、企業は顧客のニーズを予測することができます。また、顧客は希望のチャネルからリアルタイムで企業とやり取りできるようになり、チャネルに関係なく、シームレスなカスタマーエクスペリエンスを提供することができます。
優れたオムニチャネル体験の例を以下に示します。
- モバイル経由で顧客に通知をプロアクティブに送信する
- 顧客にセルフサービスのオプションを提供する (顧客がカスタマーサポートに連絡せずに個人情報や通信設定を更新できるようにするなど)
- 顧客の個別のジャーニーに合わせてパーソナライズされ、適切なタイミングで情報とリソースを提供するコミュニケーションを提供する
- ペーパーレスの請求機能を提供する
- パーソナライズされた動画を配信して複雑なトピックをわかりやすく説明する
- フォームを事前入力して顧客の手動入力の手間を軽減する
今日の消費者は、企業とある接点でやり取りした体験が、別の接点でも一貫して再現されることを期待しています。すべてのチャネルでシームレスなコミュニケーションを提供することで、ブランドへの信頼が強化されます。だからこそオムニチャネルコミュニケーションは重要です。今日の顧客は高い期待を抱いています。CCM などのオムニチャネルカスタマーエクスペリエンスソリューションこそが、あらゆるインタラクションで顧客を喜ばせるための鍵となります。